めぇでるコラム

さわやかお受験のススメ<保護者編>本を読んであげてください 〔1〕

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
         「めぇでる教育研究所」発行
     2017さわやかお受験のススメ<保護者編>
         ~紀元じぃの子育て春秋~
     「情操教育歳時記 日本の年中行事と昔話」
       豊かな心を培う賢い子どもの育て方
           -第3号-
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

	
第1章 (1) 情操教育、難しく考える必要はありません
 
本を読んであげてください 〔1〕
 
本を読んであげる、話の読み聞かせは、とても大切です。
安易に、テレビやDVDなどに、子守をさせてはいけないと思います。確かに、
このような教具は、映像と語りだけではなく、臨場感を盛り上げる音楽や効果
音を駆使して、瞬く間に、たくさんの情報を与えてくれます。これ程、便利な
ものはありませんが、送信する側と受信する者は一方通行ですから、疑問を感
じても質問できないといった不便な点もあります。わからないままに、話はど
んどん進みますから、疑問を残したままになり、消化不良を起こしがちではな
いでしょうか。しかも、伝える側に感情はありません、このことです……。
 
幼児には、お父さんやお母さんの生の声が何よりです。5歳頃になると、絵が
主役だった絵本から、字の多くなったものに変わり、話も筋道を立てて進む物
語になっていると思います。
 
ところで、本を読んでもらっている時の子どもの頭は、どうなっているのでし
ょうか。絵を見ながら読んでもらっていますから、お母さんの読んでくれる言
葉を、絵に置き換えるといいますか、映像化する作業がリアルタイムで行われ、
絵本や図鑑、テレビや実際に見た映像が、浮かんでいるのではないかと思いま
す。
 
聞いたことのない言葉が出てくると、声がかかります。 
「お母さん、オニタイジって、どういうこと?」
そこで、お母さんは、お子さんのわかる言葉に置き換えて説明をします。お子
さんは、その意味を確かめ、納得し、新しい言葉を覚え、少しずつですが、確
実に語彙が増えていきます。
 
そして一人になると、まだ、字を読めないはずですが、何やらブツブツいいな
がら、絵本を見ています。あれは、本当に不思議ですね。おそらく、読んでも
らった本がおもしろかったので、お母さんの言葉を思い出しながら、確かめて
いるのだと思います。絵を見ながら、その状況を記憶した言葉をもとに、映像
を描き、イメージ化しているのではないでしょうか。つまり、「言葉で考え、
想像」しているのです。これは、すごいことだと思います。
 
それが証拠に子どもは、同じ本を、それこそ何回も何回も、飽きもせずに読ん
でくれとせがみます。それも、読んであげている途中に、
「お母さん、ありがとう、そこまででいいです」
といったことが、しばしば起こりがちです。
読んでもらったところを忘れてしまったのか、思い出せないのかわかりません
が、話が先に進まなくなってしまったのでしょう。イメージ化の中断です。読
んでもらい話がつながったので、そこまででいいのでしょう、後は覚えていま
すから。あれは、話を一所懸命に覚えようとしているのに違いありません。覚
えようとする力、「記憶力」がつきます。
 
さらに、繰り返し読んでもらうことで、頭に描かれた映像は、より鮮明に具体
的になってきます。そこから、独自の「想像力や空想力」が培われてきます。
 
ところで、昔話を何か思い出してください。
子どもの読む話は、「起承結」で成り立っています。「起承転結」と、「転」
はなく、話は複雑になっていないはずです。「起承転結」は、漢詩を組み立て
る形式の一つで、転じて、「ものごとの順序・作法を表す言葉」ですが、わか
りやすい例えがありますので紹介しましょう。江戸時代後期の儒学者・詩人・
歴史家であった頼山陽が作った「京都西陣帯屋の娘」です。
   京都西陣帯屋の娘    (起)
   姉は十八、妹は十六   (承)
   諸国の大名は刀で殺す  (転)
   姉妹二人は目もとで殺す (結)
「ショコクノダイミョウって、なあに?」
余計なものが入ってくると、イメージ化する作業が複雑になります。帯屋の娘
の話は、帯屋の娘で終わらないと、子どもは安心できません。ですから、鬼退
治をした桃太郎が、ついでに海賊をやっつけることもなく、すんなりと終わっ
て、「めでたし、めでたし」が昔話に欠かせない決まりです。
 
さらに、物語は、「序破急(初め・中・終わり」と快適なテンポで進みます。
浦島太郎が、竜宮城で過ごした時間が何十年であっても、何らさしつかえあり
ません。話は、快く聞けるように仕組まれています。しかも物語は、単純で、
明快に展開しますから、話の世界へ引き込まれていきます。そこから、話を理
解する力、「理解力」が培われてきます。
 
そして、何とも素晴らしいのは、自然と話に引き込んでいく、あの約束事でし
ょう。イントロダクション、導入部などの言葉が、白々しくなるほど決まって
います。「むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが、住ん
でいました」で始まりますが、これが、実に重大な役目を果たしているではあ
りませんか!などと興奮することもありませんが(笑)。
 
「むかし、むかし」は「いつ」と時間の設定ですが、いつのことだかわかりま
せん。
「あるところ」は「場所」ですが、どこだかわかりません。
「おじいさんとおばあさん」は「だれ」と大切な登場人物ですが、名前もあり
ません。みんなあいまいで、そのあいまいなままに「何を、なぜ、どのように」
と話は展開していきます。
 
これも、考えてみると大変なことです。
時代はいつでも、場所はどこでも、名前がなくても、何ら不都合はありません。
奈良時代だろうが平成時代であろうが、北海道だろうが、はたまた沖縄であろ
うが、みんな「むかし、むかし、あるところ……」で済ませてしまいます。時
代考証も、場所の設定も、人物の履歴も、何も必要ありません。ですから、子
ども達は、何ら抵抗なく、心安らかに、期待に胸を躍らせながら、話の世界へ
入っていけるのです。しかも、没我の世界です。
 
これを、几帳面に、
「江戸時代の元禄十二年、大晦日を迎える二日前の朝、上総の国、蒲郷郡、大
字蒲郷、字大和村の一本杉の側に、山之上太郎左エ門という名の爺さまとお熊
という名の婆さまが住んでいました」では、聞いてみようかなとはならないで
しょう。
「お母さん、もう眠いから……」、こうなるのに違いありません。読むお母さ
ん方も疲れてしまいますね。
 
昔話の構成や作者の意図について、「なるほど!」と納得し、肯かざるを得な
い古典落語が、創刊号で紹介しました「桃太郎」です。確か、古今亭今輔師匠
が得意とした噺ではなかったでしょうか。お薦めの話、第一号として、この章
の最後にダイジェスト版ではなく、全編を紹介する予定です。
 
ところで、昔話は、
   いつ(when)
   どこで(where)
   だれが(who)
   何を(what)
   なぜ(why)
   どのように(how)
と文章を書くときの基本である[5W+1H]から成り立っていますが、新聞
記事やテレビのニュースなどを瞬時に理解できるのは、この原則に従っている
からです。ということは、昔話を聞きながら、[5W+1H]を小さい時から
学んでいることになります。これは、すごい知恵ではないでしょうか。
 
勿論、子ども達は、「いつ・どこで・だれが」などと意識して聞いているわけ
ではないでしょうが、話は理路整然とセオリーどおりに進んでいきますから、
繰り返し話を読んでもらい、話を覚え、絵本を見ながら言葉で表現することで、
物事を筋道立てて考える訓練にもなっているのです。物事を組み立てる、考え
る力、「構成力や思考力」が自ずと身につきます。
 
そして、子どもは話を覚えると話したがります。
それには、自分自身が、話をよく理解していなければできませんから、そのた
めの訓練が自発的に始まります。話の流れをきちんと記憶し、組み立て、味わ
い、自分の言葉で話す訓練です。それが「表現力」につながります。
 
こんなに大切な能力開発を自ら積極的に挑戦しているにもかかわらず、
「パパ、『ももたろう』の話、知っている?」
「ああ、知っているよ。猿と犬と雉の家来を連れて、鬼退治に行く話だろう」
と無造作に応じてしまうと、折角、積んできたトレーニングの成果を試すこと
もできません。
「今までの努力は、何だったのだ!」
とは思わないでしょうが、悔しい思いをさせているのではないでしょうか。
子どもは覚えた話を、話したいのです、聞いてもらいたいのです。
「うん、パパも子どもの頃は、よく知っていたけど、どういう話だったかな?」
と、やさしく受けてあげましょう。
お子さんは、一所懸命に話すはずです。
 
そして話し終えたときに一言、「よく覚えたな、えらいぞ!」と、褒めてあげ
ましょう。褒められて不愉快になるはずはありませんから、さらに、話を覚え
ようとします。そこから、「物事に取り組む意欲」が芽生えます。
意欲は、新しい能力を開発する起爆剤です。
しかも、「覚えなさい!」と言われて覚えたものではなく、「話してみなさい!」
と言われて訓練したものでもありません。強制されずに、自発的に、楽しみながら積極的に挑戦し、
能力を開発しているのですから、その効果は一石二鳥どころではなく、計り知れないものがあります。
 
このように話の読み聞かせは、
「語彙を増やす」だけではなく、
「イメージをふくらませる空想力や想像力」
「話を聞く力」
「構成力や思考力」
「言葉での表現力」
「物事に取り組む意欲」
といった能力などの開発に、とてつもない大きな影響を与えているのです。しか
も、これだけではありません。
(次回は、「本を読んであげてください 2」についてお話しましょう) 
 

過去の記事

全て見る